arteria



ふとした匂いで記憶が鮮明に蘇ることがある。
五感の中で、嗅覚だけが大脳とダイレクトに結びついているからだそうだ。

私にとってそれを強く感じるのは、ビルに囲まれた人ごみの中で風に乗って
やってくる雨の匂いや土の匂い、建物や木々の隙間から射す光である。
蘇るイメージを可視化するためにシャッターを切るが、肉眼で見る景色と
ファインダー越しに見る景色、写真の中に収まっている景色、記憶の中の景色、
全てが少しずつ違う。
撮っただけでは再現できないイメージを補うために、針と糸を使った。


arteria:英語で動脈を表すarteryの語源であるラテン語
arは空気、teriaは運ぶに由来する言葉


針と糸を手に、写真をじっと見つめていると薄い道筋の様なものが見えてくる。
そのかすかな筋を探るように針を進めていくと、次第にその写真に血が巡り出し、
どくどくと音を立て、どんどん立体感を増す。

匂いを感じずとも、その写真を見るだけで記憶が、あの日の光が、風が、
全てが鮮明に蘇るように。
そして、その景色を他の誰かとも共有できるように。